
024
ある日いつものように買い物に行こうとして、トラックを車庫からバックして出そうとした。少し下がりすぎたような気がした。オートマチックのギアレバーをRからDに入れ換えて前進しようとしたが、トラックは前に進まなかった。何回か繰り返したが、だめだったので車から降りてみた。すべてのタイヤが雨で湿った泥の中にめり込んでいた。
こらは大変だと直感した。裏の畑の両側にある鳥小屋に行って、板切れ数枚を拾ってきた。それらをタイヤの下に置いてぬかるみから脱出しようと思った。しかし車はずるずる後ろの方に下がっていくばかりだった。家から道路側に向かって地面は下り傾斜しており、トラックは傾斜を登らなくてはならない状況になっていた。このトラックは4輪駆動ではなく、2輪駆動である。バックしすぎて水をたっぷり含んだ泥の中にはまり込んでしまったのである。
乾いた砂をタイヤの下に撒いてみたが、まったく効果はなかった。タイヤは泥だらけになっていた。車体の側面にもはねた泥が大量に付いていた。少しバックして勢いよく脱出しようとしてみたが、トラックはますます深い泥の中にはまり込んでしまった。自分だけの力ではどうしようもないと悟った。
いったん家の中に戻り、カポホの僕の家に住んでいる女性に電話してみた。彼女は携帯電話を持っている。携帯電話といっても一昔前の日本の自動車電話のような大きなものだ。月80ドルぐらいかかると言っていた。
ハワイ島の携帯電話の番号は日本のように特殊な番号ではない。固定電話の番号と同じ形式だ。番号だけではそれが携帯なのか固定なのか分からない。固定電話からかける料金も従量制ではない。いくらかけても特別の料金は発生しない。
彼女は自分の車では無理だからと言って、TOWING SERVICEをしている会社の電話番号をいくつか教えてくれた。3社だったと記憶しているが、それらにすべて電話したが、どこも応答がなかった。その日は土曜日か日曜日だった。そこで電話帳でTOWING SERVICEのページを探すと、KEN’Sという会社が見つかった。実は彼女に電話をかける前に、電話帳でCARの項目を調べたが、ぬかるみに埋まった車を引っ張り出してくれそうな会社は見当たらなかった。TOWという言葉は知っていたが、その時はなぜか思いつかなかった。
KEN’Sに電話すると、すぐにつながった。事情を説明すると、すぐに行くと答えてくれた。自宅の電話番号と大体の場所を教えて、到着するのを待った。30分もしないうちに、近くに来たので、場所を詳しく教えて欲しいと言う電話がかかった。舗装道路からでこぼこ道に入るところを何度も説明した。
数分でワイヤとウインチを装備した小さなトラックが来た。車体にはKEN’Sと書かれていた。運転手しか乗っていなかった。彼は自分のトラックを車庫の中に入れ、僕のトラックの先端部の下にあったフックにワイヤの端を引っ掛けた後、僕にトラックに乗ってくれと頼んだ。
ウインチが回されると、いままでまったく前に進めなかったトラックが前方に動いた。すぐにドライブウェーの硬い地面に上がり、トラックは自由に動くようになった。料金は75ドルだった。消費税は請求されなかった。
これに懲りてトラックがやわらかい泥のところまでバックしないように、トタンの波板をドライブウェーの上に2、3枚並べた。トタンの波板も鳥小屋付近に何枚か放置されていたものを拾ってきた。はまったタイヤによってできた溝のようなくぼみにパイナップルの苗を植えたが、後に全部掘り起こし畑に植えなおした。芝刈り機で雑草を刈るときに、パイナップルの葉も刈ってしまうからだ。